南房総の家-2
Minamibouso house-2
千葉県南房総市海と風と地形に応答する、南房総の住まい
この住まいは、千葉県南房総の海岸線に緩やかに立ち上がる地形と、敷地を包む防砂林を前提に計画された。
防砂林は海からの風や砂を受け止める"盾"として機能し、古くから海沿いの暮らしを守ってきた地域固有の環境装置でもある。
冬には「大西」と呼ばれる北西の強い季節風が吹くため、海辺の建築は自然と対立するのではなく、自然の力に寄り添うかたちで計画することが求められる。
かつての日本民家が風向や日射を読み込んで地域ごとに独自の形態を育てたように、この計画もまず環境条件の読み解きから始まった。
敷地の東側は隣地が約5m高く、その影響で崖条例がかかる。
南側の道路も東へいくほど高くなり、複数方向から"崖"の規制が入り込む。
そこで、建物を規制をわすかたちで海側へ寄せ、東側の高低差を"守られた庭"と捉えるゾーニングとした。
この庭は将来、バレルサウナやプール、BBQデッキ拡張などの計画余地としても機能し、段階的に楽しみを育てられる場所である。
建物構成は、1階を"落ち着く階"、2階を"海とつながる階"として明確に分節した。
1階は防砂林の庇護を受ける位置に客室をまとめ、海遊びのあと外部シャワーから直接入れる動線を組み込んでいる。
石積みの小道が敷地脇を通り、どこか海外のような穏やかな雰囲気で静かな海へ導いてくれる。
階段を上がると、チーク材の引き分け戸がいったん視界を閉ざし、扉を開く瞬間に海が一気に立ち上がる。
「内包から開放への転換」は、手前の閉じた領域で視覚的な基準をつくり、その後の海景の立ち上がりを際立たせるための"視覚のコントラストの設計"と位置付けた。
扉を開ける動作そのものが、空間の奥行きと景色の広がりを際立たせるしくみになっている。
階段室上部の大きなフィックス窓は、朝の光を深く引き込み、時間の移ろいを内部に静かに刻んでいく。
2階は、海景がもっとも美しく広がる高さに床高を合わせて、LDK・主寝室・水まわりを一体的に配置した。
天井は海へ向かって緩やかに上昇する片流れ勾配とし、空間そのものが視線を海へ導く仕組みとしている。
この操作は、日本の登梁構成がもつ"勾配の伸びやかさ"と響き合うものであり、近代住宅が追求した"水平性の強調"とも通底している。
LDKには左右4mずつ、計8mの特注木製フルスライドオープンサッシを採用し、室内外の境界を大きく開放できるようにした。
これほどの大開口が実現できたのは、サッシ間に配置した構造壁に、昨今の構造技術による高い壁倍率
来であれば難しかったスパンを確保しつつ、開放性と構造安全性を両立している。
その外側には耐久性を重視したRC造のデッキテラスを設け、床レベルを揃えることで、海とつながる感覚を生み出している。
気候が良い日には、海の向こうに富士山を望む雄大な眺望も得られる。
深い軒の出は夏の日射を抑えると同時に、外壁や木部の経年劣化を軽減する役割も持つ。
LDKと連続する浴室や洗面は、従属的な裏方空間ではなく、海の光を取り込む"主景空間"として計画している。
水まわりの仕上げは、濃色タイルで整えることで海景を際立たせた。
湯面に反射する海の光が天井へ波紋を描く現象は、この土地だからこそ得られる美しい室内風景である。
また、本計画は将来の貸別荘としての運用も見据えている。
水まわりに洗濯機・乾燥機を組み込み、滞在者の動線と清掃性を高め、"個人の住まい"と"運営する住まい"が同時に成立する現代的な住宅のあり方を取り入れている。
最終的な建物の形は、防砂林、強風、海への視線、崖条例といった敷地が与える条件から自然に導かれたものだが、そこから先の開口の調整、構法の選択、素材の扱い、光の設計こそが、この土地で長く健やかに生きる建築を支えている。
本計画は、南房総の土地が持つ歴史と自然の力を素直に受け止め、"海へ開き、風を受け、土地の時間を暮らしに取り込む"そんな、この場所らしい住まいの姿を目指した。
建物概要
主要用途:別荘
構造:木造軸組工法
規模:地上2階
写真:─

