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南房総リノベーション

Minamibouso renovation

千葉県南房総市

私には、暖炉を眺めながら言った施主の忘れられない一言がある。
『薪が炭になって燃え尽きるのをずっと見ていたい。命が燃え尽きる最後を見つめていたいのだ』

はじめての訪問時、日差しが気持ちの良い日中にもかかわらず室内はうす暗く感じられた。
裏に山を背負い、竹が鬱蒼と生い茂る。
その山の絞り水が基礎下に流れ込み、床下の湿気が木軸を不朽させる。
なんのために設けられたかわからない床下の井戸は重い蓋で閉ざされていた。
どこかどんよりとした空気に包まれているのが印象に残っている。
しかし、東京と千葉の二地域居住を実践する建主はどこまでも明るく、博愛主義である。
虫であれ、植物であれ、悪さをする絞り水でさえ、何に対しても愛着を持ち、井戸が苦しんでいる、早く解放して循環してあげたい。と言うのだ。
冒頭の言葉も何気ない会話の一コマであるが、我々は、長閑で穏やかな時間が流れているこの地域の風景に溶け込むような再生を望まれているのだと率直に感じた。

要望は父の偉大な功績の収蔵庫とそれを飾る私設ギャラリー。
加えて、採光・通風をふんだんに取り入れたLDKと、家全体の断熱改修である。

はじめに、LDK空間を1階から2階へ大転換することで、南房総の里山の原風景を最大限に取り込めるように考えた。
リビングから望むフルオープンの木製サッシは最も眺めの良い場所にあり、景色を切り取るこの窓さえあれば特別な建築的操作は必要ないと思い至ったからだ。
あとはそれをより顕在化させるべく空間の仕上げに拘わる事とした。とは言っても奇抜なデザインはこの家にそぐわない。それは素朴でいて温かみのある素材である。
日本では古来から使われているタモ縁甲板、白木で伸びやかな杉羽目板天井、真っ白な漆喰塗りの壁、そこに背景として挿入された鈍く光る焼杉素地の壁面である。
基本的な素材使いとしては光のリフレクター効果にも期待し、部屋の奥まで光を拡散させるように意図したものである。
光を取り込むことができたからこそ、焼杉が活き、この焼杉があるからこそ、暖炉の炎に命を感じるのだ。
杉板を炎で炙り炭化させたこの素材に、私は氏の所望を感じた事も忘れない。

焼杉は1Fの私設ギャラリーのデザインにも踏襲されている。
ここでは美術品に炭が移らないよう、表面を特殊コーティングをするなどの工夫を凝らした。
1階の洗面所、浴室、トイレなどの水周り空間には、既存のカリンフローリングを再利用することで、新建材にはない唯一無二の風情と迫力を生むことができたのではないだろうか。




建物概要
主要用途:専用住宅
構造:鉄筋コンクリート造
規模:地上2階

category: リノベーション / 住宅

 

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