中馬込リノベーション
Nakamagome renovation
東京都大田区中馬込室から質へ
東京大田区の住宅地に建つ、親子3人+犬二匹による鉄骨造3階建ての改修である。
既存建物は増改築を繰り返し、内外観にデザインの統一性や規則性が全くない。
特に生活の主空間である2階LDKは、接道する西面や北面の開口部によって開放感や日当たりはあるものの、開口部の多さが落ち着きをなくし、陰影と奥行きに乏しい空間となっていた。
更に、家全体がほぼ無断熱で外皮性能がゼロに等しい状態であったため、住環境の改善が必要とされた。
そして改修のもう一つの目的として、施主の趣味である車やバイクを保管するために、1階ガレージの拡張が求められた。
はじめに、ガレージを拡張するにあたり、1階に存在した洗面所と浴室を2階の西側に移動し、居室における過酷な西日に対してのバッファーゾーンとした。また、水周りを2階に集約することで家事動線の短縮を実現した。
元々が工場だったこの建物の1階は天井高が約3.6mあり、ガレージとしては持て余す部分にロフトを設置、施主の趣味兼収納部屋として機能する。
ガレージ内の無骨な鉄骨梁やキーストンプレートは塗装のみの現し仕上げ、壁にはラフなワラン合板貼りを採用し、DIYもこなす施主に塗装を託した。
フルオープンできるレッドシダー貼りの3枚建木製扉はこの家のシンボルとなり、車やバイクのディスプレイに一役買っている。
だだっ広いワンルーム状態だった2階LDKは、水周りの移設によって縮小されたが、天井いっぱいに設けた開口部や内部から外部に繋がるラワン羽目板貼りの天井によって、奥行きが強調された無駄のない空間となった。
また、採光やプライバシーを調整するため天井埋込みのロールスクリーンを設け、強烈な西日により塞ぎがちだった接道面に空間の抜けを作り出し、広がりを演出した。
壁面いっぱいにデザインした収納は生活家電を隠し、書斎としてのデスクカウンター、犬達のゲージを連続してすっきりと配置することができた。これには、家具との距離感がより身体に近いスケールとなり、空間に落ち着きを与える意図も含まれている。
リビングとダイニングの間には4枚の引込み戸があり、これを閉じるとコンパクトな犬達のお留守番部屋が完成する。特に自分では体温調整がしにくいフレンチブルドックのため、無駄なく最小限の空間を空調コントロールすることができる。また、クラシックバレエに日々打ち込む娘のため、4枚引き戸のうち2枚は全面鏡貼りとした。
引き渡し後、コロナ自粛騒動の中、建主から嬉しいメールをいただいた。
『早く帰りたいと思える家がある。仕事に追われるだけだったこのご時世に、奇しくも家族と居心地の良い家で過ごせる時間が増えた事を嬉しく思う。』
大きくプラン変更をした訳ではないが、外的環境をしっかりと読み解いてプランに落とし込み、身体スケールと家具や建具との距離感、素材を吟味したりなど、そういった小さなデザインの集積が居心地の良い空間につながったのだと思う。
建物概要
主要用途:専用住宅
構造:鉄骨造
規模:地上3階
写真:鳥村鋼一